柴崎友香「その街の今は」

宗右衛門町、谷町筋、心斎橋、千日前、御堂筋、四ツ橋筋、難波、日本橋(にほんばしではなく、にっぽんばし)・・。
大阪に5年住んだ私にとっては、懐かしい名前のオンパレードだ。
南海線沿線の浜寺公園横に住んでで居たので、「ミナミ」はとくに懐かしい。
東京の亜流のような「キタ」よりは、大阪の匂いの強い「ミナミ」の方が私は好きだった。
といってもコテコテの大阪、例えば通天閣や阿倍野などは足を踏み入れたことがないのだが。
「アメリカ村」は、ぼちぼちと店ができかけていた頃。
若くてお金もなかったが、大阪はB級食べ物の天国。何を食べても美味しかった。
そこは東京と大きく違う。東京は美味しいと評判の店しか美味しくないし、評判でも美味しくないことはよくある。
味のレベルが、大阪の方が数段上だと私は思う。
 
なんという事が書かれているわけではない。
大阪の古い街を写した写真を集めている若い女性の、バイト先の喫茶店、友人とのコンパなどの日常を描いたものである。
登場人物の輪郭が淡すぎて、何が書きたいのか「?」という部分もあった。
悪くはないし嫌いでもない。
でも世間の評価ほどには「いいなぁ」とは感じられなかった。
これを読む前の日に「ひとり日和」を読んだことがその理由の一端かもしれない。
決して比較するわけではないのだが、「ひとり日和」の過不足のない完成密度の高さが頭に残っていたのだと思う。
ただ、若い作家たちが会話で作品を成り立たせているものが多い中、風景描写がしっかりとできているのが新鮮だった。
 
出てくる大阪弁を、いつの間にか自然に大阪弁のイントネーションで読んでいる自分がいて、おかしかった。
 
カテゴリー: パーマリンク

コメントを残す